光を数値で表す方法のひとつに「色温度」という尺度があります。これは、温度によって光の色が変化する特性をK(ケルビン)という単位で数値化したものです。色温度は照明などの光源の色を表す際に用いられます。
本記事では、照明選びの際の大事な要素ともなる色温度について解説していきます。
一見すると、光の色合いを表すにあたって温度を結び付けるという概念は理解しにくいかもしれません。
色温度の概念が作られるきっかけとなったのは、鉄鋼業における鉄の精錬といわれています。鉄の温度を測定する機械がなかった時代、熟練工は鉄を溶解した際に発せられる光の色から温度を目で確認し、精錬していました。
しかし、目視に頼る方法では作業を行う人によって製鉄の精度にばらつきが出てしまうため、品質を保ちながらの大量生産が難しいことが問題でした。そこで、機械的に温度を数値化して測れないかと研究がなされ、色温度が誕生しました。
実際の照明は物が燃えていたり熱せられていたりしないのですが、「燃えているとしたら何度くらいで燃えているのか」を照明光の色見の指標として色温度という概念が利用されています。例えばLED照明は、LEDチップが加熱されて発光しているわけではありません。しかし色温度の高低で、光の色味を表すことが慣例的に常識化されているため、色温度の概念が使われているというわけです。
色温度の単位には、熱力学温度の単位であるK(ケルビン)が使われます。イギリスの物理学者であるケルビン卿ウィリアム・トムソン(1824年〜1907年)の名前に因んでつけられた、国際単位系の基本単位のひとつです。国際単位系とは国際的に定められ、多くの国で共通して使用されている単位系を指し、基本単位にはケルビンのほかに秒(s)やメートル(m)、アンペア(A)など、7つの単位が定められています。
K(ケルビン)は絶対温度の目盛りであり、0Kは絶対零度という温度の下限値にあたります。熱エネルギーを発生させる分子は-273.15℃で完全に動かなくなってしまうため、これ以上温度が下げられない0K=-273.15℃を下限値とした温度体系になっています。
2019年5月20日から、ケルビンの定義は、
「ボルツマン定数kを単位J K⁻¹(kg ㎡ s⁻² K⁻¹に等しい)で表わしたときに、その数値を1.380 649×10⁻²³と定めることによって定義される」
と改定されています。改定前は水の三重点温度(個体・液体・気体が共存する状態の温度)を厳密に273.16 Kとする定義であったため、同位体(中性子数の異なる同一元素)や不純物の影響による温度の変動が問題視されていました。顕在化した普遍性の問題解消に向けてボルツマン定数(統計力学の物理定数)を使った改定を行い、今はこうした問題がクリアになっています。
異なる温度を持った物質は熱エネルギーが放射され、温度を平均化しようとする働きが生じます。この熱放射と呼ばれる現象を、黒体を使って発生させ、光の色と温度を対応させたものが色温度です。黒体というのは熱放射によって光源を発する真っ黒な物質を指します。完全に電磁波を吸収する(光の反射をしない)理想的なモデルの名称であって、黒体は現実に実在するものではありません。実在する中で黒体に近い物体の例としては、鉄や木炭、石炭などが挙げられます。
下図は、黒体の放射現象による光色と温度の関係を表した色温度と光源の例です。
図では、晴天時の空や晴天時正午の太陽光が挙げられていますが、実際に空や太陽光が燃えているわけではありません。(太陽は燃焼していますが、大気のフィルタを通すことで太陽光には短波長成分の減衰が生じていますので、実際の黒体放射とは違う、ということになります。)例えば、黒体の温度が約5500Kである際に、熱放射で発せられる光の色は、晴天時正午の太陽の光の色と同じと表現されています。しかし、これは「晴天時正午の太陽光が約5500Kの温度を有する」ということではなく、黒体の熱放射による光の色と一致する光源がある場合、その際の黒体の温度を色温度として表現し、光の色を表す数値としているのです。
この色温度のK値は物理学者のプランクによる研究で導きだされたもので、低温では赤みが強く、高温になるにつれ白くなります。さらに温度が上がってくると、晴天の青い空のような青みの強い光色に変化していきます。
人が認識できる波長は約380〜780nm(ナノメートル)といわれており、人間が見える範囲の光は可視光と呼ばれます。黒体放射による光色は可視光域に分布している強さのみ、視覚で認知することができます。
上記の「波長による光の色の変化」の図は、「Fig3 温度別による国体放射の光の強度」の補足になります。図によると、低いK値のほうが赤みの出る長波長が強く、K値が高くなるほど青みの強い短波長の割合が大きいことがわかります。
色温度の測定方法は日本産業規格(JIS)で規定されており、「JIS Z 8725:2015」に詳細な手順が記載されています。ここでは、JIS規格を要約した計測手順と色温度の表示方法を紹介します。
以下は、光源の色度座標と最も近い黒体の絶対温度で表した「相関色温度」の計測方法です。
1.計器を使ってXY色度値を計測する
色彩計や色彩照度計、色彩輝度計などの計器を用いて、XY色度値を求めます。XY色度値はCIE(国際照明委員会)が定義したXYZ表色系のXY色度図における数値で、XとYを求めればZが導き出せます。
2.XY色度値をuv色度値に変換する
測定したXY色度値を、CIEが定めるLuv表色系のuv色度値に変換します。Luv表色系は、XYZ表色系より色同士の距離が人の認識する感覚に近い表現となっています。
3.最短距離の黒体放射軌跡を描く
温度別に黒体放射の色度値をuv色度図中にプロットします。色度値を繋いでできた曲線が黒体放射軌跡です。
4.uv色度値と最も近い絶対温度を求める
2で求めたuv色度値と最も近い黒体放射軌跡上の1点を求めます。軌跡と垂直に引いた線を等色温度線といい、近似値を通ったラインが光源の相関色温度となります。
JIS規格で定められた色温度の量記号は「Tc」、相関色温度の量記号は「Tcp」となっています。測定した色温度の単位には、前述のようにケルビン(K)を使います。
本来の色見を正確に識別するには、光源の色温度が大切な要素のひとつとなります。太陽の光のような自然光や照明の人工的な光はそれぞれに含まれる波長が異なるため、天候や照明の種類によって物質の見え方は変わってきます。
特に、映像制作やデザイン関係といった色の見え方に正確性を必要とする人は、求める光源を適切に選ぶことが重要です。色味は映像や写真、デザインなどのイメージを大きく左右します。
また、照明の色味によって、くつろげる部屋や爽快な気持ちで過ごせる場所など、空間の雰囲気にも影響を与えます。物質の見え方にこだわる人のみならず、生活をしていれば光が必ず大きな関わりを持っています。
色温度を理解していると、照明の選定や物の見え方の調節に役立ちます。
自然光である太陽の光は、正確な色見を認識する上で基準となる光源です。太陽光は昼間でおよそ5000〜6000K、朝日や夕日になると2000~3000K程度と、1日の中で大きく色温度が変わります。朝は赤みの強い太陽光を放って陽が昇り、昼になるにつれ白から青みがかった光色に変化し、また赤みの強い夕日となって陽が沈みます。
特定の光源がどの程度、太陽の自然光に近いかを示すファクターとして、演色評価数・色温度・照度の3つがあります。
(1)演色評価指数が太陽の100に近いこと
(2)色温度が太陽の5000~6000Kに近いこと
(3)十分な照度(2000ルクス以上)があること
上記の条件がすべて揃っている場合に、太陽の代わりとして色を見るための照明として使って差し支えないレベルの照明と言えます。
前述の通り、正確な色彩を認知するには、昼間の太陽光による反射が必要です。よって、光源と太陽光の差を数値化できる色温度は、正確な色を見る上で重要な要素となります。
セリック株式会社の人工太陽照明灯は、太陽光のもとで見るのと同じ色彩を室内で再現することができます。普通の白熱電球は(2)の色温度が低いために全体が黄みがかって見え、蛍光灯は(1)の演色評価指数が低いために色彩が正確に見えません。その点、人工太陽照明灯はこの3つの条件を完全にクリアしています。
弊社の人工太陽照明灯は光栄にも多数のお客様からご好評いただき、ブティックや印刷所、塗料調色のほか、宝石鑑定や歯科技工まで、正確な色彩の認識を必要とする、あらゆる分野で太陽光の代替光源としてご使用いただいています。ご興味のある方はぜひ以下の製品ページもご覧ください。
セリック株式会社の製品一覧はこちらから
色を温度の単位で数値化するという特殊な尺度の色温度は、照明などの光源を正確に評価する上で不可欠なファクターです。光色と温度の相関関係は電磁波の波長が関係しており、可視光の範囲で変化を認識できます。低温は赤みがあり、高温は青みがかるという色温度の特徴は、一般的にイメージされる「青は冷たく、赤は暖かい」という感覚と逆になっています。