■導入製品 人工太陽照明灯XC-500AF 4灯
■使用用途 月・惑星表面の太陽環境模擬試験
■所在地 相模原キャンパス 宇宙探査実験棟
■WEBサイト http://www.ihub-tansa.jaxa.jp/
宇宙探査イノベーションハブは、異分野との融合によりイノベーションを創出し、宇宙探査をテーマとした宇宙開発利用の拡大と事業化を目指す新たな仕組みを構築しています。
地球上で、「探る」、「作る」、「建てる」、「住む」といった活動や研究をしている民間企業や大学、研究機関の皆さんから、将来の月・火星探査に必要な技術であり、かつ、地上の技術への転用で我々の生活が大きく変わる(イノベーションにつながる)ような提案をしてもらい、一緒に共同研究をしています。
ここでは、大型屋内実験場「宇宙探査フィールド(面積400㎡、砂総重量425t)」を使い、いろいろな宇宙探査の研究開発のための実験や試験をしています。
その中でも、最も重要な試験の一つは、月・惑星での太陽光が当たらない暗室環境や、太陽高度が低い状況(極域等)を再現させて行う試験です。
宇宙探査では、太陽の影響がどう関わってくるのかが、かなり重要になってきます。
そこでセリックさんの人工太陽照明灯を使う事で、いろいろな照明環境を試す実験が出来ています。
他には、数百kg級の実サイズの着陸機や探査ロボットを使って、着陸後の機能(ちゃんと動くか、走行する機能が働くか)やシステム試験(きちんと各サブシステムが働き目的を果たせるか)、オペレーション試験(石を拾って分析しなさい、など特定の作業ができるか)などの試験をします。
狭い実験室だと1つの機能しか試験できませんが、ここは非常に広いので、実物大のサイズの物が広く展開でき、本当に本番さながらのオペレーション試験ができるのが一番の特徴です。
以前、調布航空宇宙センターで研究開発を行っていたのですが、そこで先輩研究者の人たちが「光の可視光の周波数域が良く合っているセリックさんの人工太陽照明灯」を擬似太陽光としてよく使っていたので知っていました。
熱波長とか赤外域とかの波長を合わせた照明灯も、同じラインナップにあると聞いていますが、今回は太陽電池の評価をする訳ではないので、可視域の光周波数の特性が一緒に合わせたい、という事からこちらの人工太陽照明灯XC-500AFを購入させて頂きました。
LEDでも、光の周波数帯を良く出すLEDもあると思います。しかしそこで問題となるのが、月などの宇宙環境では平行光になるということです。LEDはおそらく平行光源の平行性が少ないのかなと思って、より点光源に近いセリックさんのキセノンランプを使った人工太陽照明灯の方が、月に見合ったような光環境が作れると思いました。
月は真空で大気の拡散反射がないので、影があると白黒はっきり映るんです。それを地球上で再現するには、面光源のようなものよりも、点光源の方が良いので、LEDよりセリックさんのキセノンランプを使った人工太陽照明灯の方が適していました。
ただし、XC-500AF 1灯だと小さいので4灯を組み合わせてしまったので、その意味では点光源から外れてしまったんですけど(笑)。
という事で、購入に至ったプロセスとしては、先輩方が使っていた事と、可視域でかつ、点光源に近い月面の表面環境を模擬するのに適しているのではないか、と考えたことです。
JAXAをはじめ海外の宇宙機関でも、月面に基地を作るという構想、提案がいろいろ検討されています。そこで「月面で基地を作るのであればどこに作るか?」ということも併せて考えられています。
月は1ヶ月で1日が変わります。
どういうことかというと、昼間が連続で14日間続き、夜間が連続14日間続きます。だから、昼間になると14日間、温度が上がり続け、夜間になると14日間、温度が下がり続ける、という事になるので非常に温度変化が大きいです。
そこで問題が出てきます。
宇宙での作業はだいたい太陽電池を使うんですけど、昼間は暑すぎるのが14日間続くし、夜になってしまうと太陽電池の発電ができなくなる日が14日間も続いてしまいます。そのため、なかなか宇宙ロボット等が使いにくい、という事になってしまいます。
そこで、月面にもし基地を作るのであれば、南極とか北極とかの極域に作るのが有効と考えられています。なぜ極域かというと、これは地球と似たような状況になるんですけど、極域は白夜のような照明条件になります。約90%近い期間、横から太陽が当たっているような日照地域があることが調査されています。
極域では真横から太陽が当たるような特殊な照明環境が発生するので、地球上でもそういった環境を模擬した試験をする必要性がありました。そこで、照明を天井から取り付けるのではなくて横にから照らすことにしました。
横から照らすことにより、影がすごく長く伸びたりします。実は、ローバ(※)をナビゲーションとかしようとすると、結構、影ができたりします。このローバには「広い影の所を避ける」などの制約がありますので、この環境の模擬が必要だったのです。
(※)宇宙開発において地球外の天体の表面を移動し、観測するために使われる車両のこと。(ウィキペディアより)
それは、カメラの画像が見えなくなってしまったり、太陽電池の発電が無くなってしまったりするからです。もちろん、蓄電池を使うとか、車のライトみたいなのを使うとかをすれば良いのですが、基本的には太陽がずっと当たっている環境での作業を利用することを考えています。
そういう環境の下で、思いもつかないような突飛な光の照明環境が発生した場合でも、きちんとローバが進めるか、あるいは、複雑な作業ができるか、普通だと物がつかめるが太陽の陰にならないようにして物をつかむことができるか、などを試験しなくてはいけません。
その環境を模擬するためには、月の極域と同じように横から太陽があたるという環境を作るのが重要だったので、人工太陽照明灯を使わせていただき試験しています。
今のところ「こんなに変わっている!」みたいなことは発見できていないです。
でも、見た目がすごく変わります。例えば、普通に天井から照らした照明だと平らに見える砂場も、横から照らして見ると、ちょっとした凸凹で影がまだらに発生したりします。そういうのは、もちろん想定の範囲内ではありますが、自分で見た時に「あっ、こんな風になるんだ」という印象を受けます。
それはまだ試し切れていませんが、カメラの性能を示す時に、他の照明とかを使って特性が偏ってしまうと、たぶん見た目が違ってくる恐れがあります。もちろん、実際の環境を想定し、例えば、光学的な特性を調べるためにカメラだけを試験用チャンバ―にいれて試験をしたりするのですが、この宇宙探査フィールドでの広域の実験でも、なるべく実際に近い照明環境を提供することが必要と考えています。
他の照度を落として、その青だけを残しておくということですよね。
現在の人工太陽照明灯では、地球上での光学特性が模擬されていることになりますね。より宇宙環境に近づけるためには、そのようなフィルターを導入して、月や火星の照明条件に近づくよう使い分けることも可能ですね。
これはランプの特性としてどうしようもないことだとは思いますが、距離が近いほど照度が高いですよね。
この写真でもわかると思うんですが、ランプに近いほど明るいので、ここら辺を何とか改善できると良いかなと思います。
あと、宇宙探査フィールド全域を照らすことが可能で、位置・角度、強さやフィルタリングが調整可能な万能な平行光源装置があれば理想的です。